酪農場における繁殖管理は農場経営にとって非常に重要な課題です。ある試算では空胎日数が1日延長した場合、1000円/頭~1500円/頭の損失になるとされています。100頭であれば、当然、その100倍の損失となります。
さらに別な視点では、繁殖管理プログラムDC305を用いて「妊娠の価値」を計算してみると、平均的な農場の「妊娠の価値」は13~16万円の範囲に入ります。つまり、妊娠鑑定でプラスと分かったことで、牛の価値は13~16万円も上がるということです。
このことから、効率の良い繁殖を維持することが健全な酪農場経営にとって重要であることは間違いなく、そのための方法の一つとして繁殖検診があります。
繁殖検診では、乳牛の繁殖サイクルのそれぞれのタイミングでチェックを行います。
分娩後30日前後の牛の子宮の回復をチェックします。以下に示した項目をチェックします。
分娩後、約半数の牛が3週以内に分娩後の初回卵胞波の主席卵胞が排卵するといわれています。一般的に子宮の回復などに問題のない限り、分娩後の初回排卵が早期に起こった方が、その後の繁殖が良いという報告があります。
分娩後、左右の子宮角の太さの違いが消失するのは5週目前後(35日前後)と言われています。フレッシュチェック時に左右の子宮角の太さに差が見られ場合には子宮回復の遅れを示すサインとなります。
超音波検査によって、子宮内の貯留物の有無や量を検査します。貯留物を確認し、子宮内膜炎、子宮蓄膿症と判断した場合にはPGF2α製剤などによる治療を実施することがあります。また、重度の場合には、子宮への薬剤注入や子宮洗浄を行います。
子宮頸管の太さは分娩後、約40日で正常になるといわれています。頸管の太さも子宮回復のサインとなります。
VWP(自発的待期期間)を超えた空胎牛の卵巣の状態をチェックします。
VWPは農場ごとに設定していますが、「VWPを過ぎたらその後21~25日以内に全頭授精する」という意識を持つことが重要です。
繁殖の良し悪しを決める最も重要な要因は分娩後の初回授精とそのための発情発見です。そのためVWP終了後、発情が見られず授精が遅れている牛に対してはホルモン処置による定時授精プログラムを行う場合があります。
定時授精プログラムについては【定時授精プログラム】で紹介します。また、卵巣静止、卵巣嚢腫などの繁殖疾患が見られた場合には治療を行います。
授精後28日目から妊娠鑑定を行います。超音波診断装置(エコー)を用いて、胎子の心拍を確認しています。
また、非妊娠牛を早期に特定することも重要な目的の一つです。仮に受胎率40%の農場であれば、授精した牛の60%は妊娠していないということになります。
そのため非妊娠牛を早期に見つけ、素早く再授精へつなげることが繁殖パフォーマンスの向上につながります。
妊娠鑑定でプラスとなった牛に対して授精後60~70日の時点で、もう一度、妊娠鑑定を行います。また、農場によっては乾乳前にも妊娠鑑定します。
繁殖管理を行う上で重要なことは、その農場の繁殖状況を正確にモニターすることです。
トータルハードマネージメントサービスでは通常2週間に1回のペースで農場を訪問し、繁殖管理ソフトのDC305を用いて、農場ごとの繁殖状況を正確かつリアルタイムにチェックしています。